2022年はこんな年でした。
明けましておめでとうございます。
今年も旧年中にお世話になった方々を思いながら2022年を振り返りたいと思います。まずは2022年に立案した新しいプロジェクトについてまとめ、報告させていただきます
<寺報リーフレット事業>
寺報(お寺の活動報告をまとめたお便り)をリーフレットとしてリデザインしました。事業立案から2週間で販売を開始し、その5日後には最初の契約をいただきました(現在は9ヶ寺成約)。このスピード感は独立したからこそできることだと感じ、私にとって大きな自信となりました。
<セミナー事業>
お寺との勉強会から着想し、私が寺院広報の必要性についてお寺の檀家さんに講演しました。今まで3ヶ寺で開催し、参加された檀家さんをインタビューして記事にしました。これまで「やっただけ」で終わっていたイベントを当社が取材し記事にすることで、参加者の満足度が見えフィードバックを得られることで、次のイベント参加や内容の改善につながりやすくなりました。
<インタビュー番組事業>
Zoomでインタビューした模様を番組形式で放送。ロケの必要がなく取材できる利便性から17ヶ寺で実施いただきました。そのうち6ヶ寺には住職記事を契約いただき、顔の見える広報の必要性を認識いただけました。お寺セミナー事業にはお坊さんのインタビュー映像を引用することもできます。中には非公開ながら映像を作成したクライアントが3ヶ寺あり、仏教の言葉を映像に残すニーズを新たに発見しました。
<寺院パンフレット事業>
住職の人柄記事を配るのは恥ずかしさがあるという住職からのリクエストを聞き提案した寺院パンフレットでしたが、最終的な契約まではできませんでした。納品物のクオリティを担保するためにも、読者であるユーザー視点を大切に事業化するべきと反省するきっかけになりました。
人を巻き込むお寺作り
コロナによる騒動が明けつつあるなか、お寺にも法事や行事が少しずつ戻ってきています。コロナ禍ではSNSで自ら発信するお寺が増えましたが、発信者も投稿者も「映える」投稿に飽きてきたように感じます。Zoomでたくさんの人と映る画像の投稿は少なくなりましたね。やはりお寺ではみんなが集まって対話する方が本来の形なのでしょう。
そもそもお寺の住職さんは、自分のことを発信するよりもお寺に来てくれた人たちとの関係を深めていきたいはず。そこで私が「このお寺は人を巻き込んでいくのが上手だ」と感じた事例をご紹介します。
まずは鎌倉のとあるお寺で一般市民向けに開催されていた法話会です。「檀家ではない人がわざわざ法話を聞きにお寺に来るのだろうか」と思いましたが、会場はなんと満員。その背景には、法話だけではなく、お寺コンサートや軽食を用意するなどイベント内容が充実していることがありました。コンサート会場はあえてお寺でもっとも暗いイメージがある納骨堂で行うことで、普段から明るい雰囲気が持てるよう配慮されていました。さらに、イベント後にはコンサートの出演者やお手伝いしてくれた人を交えた懇親会が開かれ、お寺に集う人と関係を深める仕組み作りがなされていました。
次に、とある宗門の研修会をご紹介します。こちらでは新たに僧侶になった人にインタビューをする座談会が実施されています。研修会の幹事を任された中堅のお坊さんが新人僧侶へ目を向ける企画を実施したのです。
「新人僧侶がなぜ僧侶になったのか」にクローズアップし、さらに次の新しい僧侶へ伝えるため、初々しい思い出の瞬間を記事と映像で残すプロデュースをしました。
研修会の記念撮影では新人僧侶が最前列に並び、指導された先生方はあえて最後列に並ばれました。普段ではあり得ないシチュエーションですが、結果として全員が笑顔で映る記念すべき写真が残っています。
お寺の行事は決して見た目に映えるものが多い訳ではありません。しかし、わざわざ“映える”ように映した画像をSNSに投稿するお寺をこれまでも見てきました。発信すること自体が目的になっては本末転倒です。本来はお寺に来てくれた人に満足していただくことが大切なのではないでしょうか。お寺はイベントなどをやりっぱなしで終わらせるのではなく、お寺に関わろうとしてくれた人を継続的に巻き込んでいくことが大事になるでしょう。
話は変わりますが、自坊(うちのお寺)と同じエリアのお寺が父の仕事をブログに残してくれていました。15年前に、そのお寺のイベントで父が参加者と一緒に読経したと書いてあります。
お寺のイベントが苦手な父でしたが、みんなと一緒に念仏を唱えたいという想いが、お寺に来てくれた人に伝わったのではないでしょうか。父の想いを残してくれた順照寺様には感謝の気持ちしかありません。
街のいいところを紹介したい。
当社は地域創生をする会社ではありませんが、お寺のある地域の特徴として歴史や文化の言い伝えを紹介するのは有効だと感じています。お寺でその地域におけるお寺の位置付けなどを紐解いた寺院資料を見ることがあります。伽藍や仏像の説明よりも、地域の人との関係性も説かれた内容の方が共感できるものです。
その地域で商店などよりもずっと長く続くお寺だからこそ、そこに関わる人の営みがあるはずです。地域を特集するテレビの長寿番組なども人の営みを外さず取材しているからこそ、単純なグルメ紹介番組よりも考えさせられる内容が多くあると感じます。
地域と関わる人、文化、風習を紹介するために、お寺が培ってきた知見はおおいに役立つでしょう。それが口伝のみで残されているのはもったいないと感じます。お寺を通じて「この街っていいな」と思ってもらうためには、御朱印や仏像だけでなく、お坊さんの人柄を発信することがまずは大切です。
お坊さんの考えていることをさらけ出し、その街に住む人に共感してもらえなければお寺には誰も来なくなってしまう。誰もが発信できる時代で、お寺は多くの選択肢から選ばれる立場にあります。住職と“わたし”の共通点が見えるようなお寺には人々も情報を求めて集まってくれるでしょう。
2022年は新たに全国23ヶ寺を取材しました。集う人との関係性をお寺自ら発信している例を、当社に関わってくれた人へ紹介することができた一年だと感じています。
お寺に集まる笑顔を増やすために。
年が明けてからの我が家では母が「いかなごのくぎ煮」を作る姿が恒例でした。毎年大量のいかなごを仕入れ、家中が醤油の香りで満たされていたものです。母はいかなごを檀家さんに配る袋に寺報を同封していました。
檀家さんのお目当てはいかなご。だからこそ、寺報を添えることで読了率が高まっていました。結果として、その後檀家さんがお寺に来てくれた際、寺報の感想を聞かせてくれる、という好循環が生まれていました。私にとって子どもの頃から見ていたお寺の景色は、その後勤務したマスコミの世界でも多くの場面で活かすことができました。
今度は私がお寺にお礼をする番です。残念ながら母はもうおりませんが、偶然と同じような取り組みをされているお寺に巡り合いました。
名古屋市の曹洞宗・正壽寺(しょうじゅじ)では坐禅会の参加者に季節の野菜などを添えた「きせつのお粥」を提供されています。感想をもらう手段としてアンケートをファックスでもらうことで、お寺の良いところや改善してほしい点を回答しやすくなる仕組みを作られていました。
正壽寺の檀信徒さまにインタビューをしたところ、お寺に対する満足度を具体的にお伺いできました。季節の行事でご住職がお経本で参加者の方や背中をポンポンと叩く作法があるのですが、それをきっかけに肩凝りがすっと消えたそうです。不思議な体験ながら、仏事に関心を持たれるきっかけとなったとか。
お寺の文化とはそもそも人の評判で作られたものです。その評判が生まれるための導線を作ること、それが私にできることだと考えています。お寺の想いを伝えた後、檀家さんが笑顔で会いに来てくれることでお寺は救われます。
もっとお寺に人が集まり、街の良さを発信する拠点となる。そんなお寺の文化ができたらいいなと考えています。
令和5年1月1日
株式会社唯
池谷正明